2011年11月4日金曜日

[書評]誰も教えてくれない人を動かす文章術  齋藤 孝



仕事柄、技術文書を書くため、分かりやすく文章を書く方法を学んできた。有名どころだと、以下の2冊だ。
日本語の作文技術 (朝日文庫)
理科系の作文技術 (中公新書 (624))
これらの書籍は、読者に誤解を与えないように、内容を正確に記載するために大いに役立つ。

一方、本書は、こうした文章力ではなく、面白い内容を書くために、「独自の視点で物事を発見する力」と「文脈をつなげる力」を身につける方法を伝授している。齋藤孝氏の本は、好きでよく読んでいるが、本書も、新たな発見と文章を書きたいという意欲を与える作品だ。

■目次
プロローグ 人を動かす書く技術
第1章 「書く」ことで生活が劇的にチェンジする―エッセイからはじめる書く技術
第2章 まずゴールを決める―「書く」ことで世界観がガラリと変化する
第3章 ビジネスの文書力―稟議書・報告書・企画書・始末書・謝罪文の書き方
第4章 学生のための文章術―感想文・小論文・自己アピール文の書き方
第5章 メールは余力を残すな―おトク感を演出できる最高のツール
第6章 評価されるワンランク上の文章力―視点の身につけ方、読書力、文章の思考法

■エッセイへの段取り
(1)ネタ出し--面白いものを書き出す。会話をメモする。
(2)グループ分け--ネタを3つくらいのグループに分ける
(3)ゴールを決める--最後の文章を考える
(4)タイトルを決める--「つかみ」が大切
(5)通過地点を設定する

書く作業へ

文章を書く前に、「最後の文章を決める」という点が、書いている最中に方向性を見失わないために重要だそうだ。が、これがありきたりな結論や道徳的な結論(例:人に迷惑をかけるな)であってはいけないという。この結論の中に、ユニーク視点、新たな認識や発見があって、はじめて書くに値する文章になるということだ。そのために、イメージが離れたものを結びつけ、その結びつけ方に新たな意味を持たせればよいという(例:チームワークとあやとり感覚)。

次に、「タイトル」を決める工程だが、ここで、読者の関心を一気に惹きつけるようなタイトルの付け方が解説されている。
具体的には、「ゴールに対する疑問文の形にする」、「無関係に見える2つの事柄を持ってくる」という方法が示されている。
例として、「通勤地獄解消の決め手はあやとり感覚か」「論語と算盤」が挙げられている。

今まで、ゴールもわからず、文章を書いていたため、漠然とした内容になることが多くあったが、割りと上手く書けたときは、確かに最初に「ゴール」を決めて、一見無関係な事柄をつなげるように、謎解きをするように書いていたように思う。

以下、以前私が書いた「夜明けのレース」という文章を紹介する。
アフリカの寓話らしい。
~~~~~~~~~~~~~~
「夜明けのレース」
アフリカでは毎朝、ガゼルが目を覚ます。
ガゼルは知っている。
最も足の速いライオンよりも速く走らなければ、殺されてしまうことを。
毎朝、ライオンも目を覚ます。
ライオンは知っている。
最も足の遅いガゼルよりも速く走らなければ、飢え死にしてしまうことを。
あなたがライオンなのかガゼルなのかは問題ではない。
夜が明けたら、とにかく走ることだ。
~~~~~~~~~~~~~~~

人間も大昔は獣に追いかけられたり、獲物を探したりするために、森の中を走っていたんだろうな。

でも、世の中が便利になりすぎて人は、走り方を忘れてしまったように思う。
特に日本のように文明化された社会では、車やタクシー、公共機関に乗れば、走る必要もないのかもしれない。

レースといえば、
最近、大学入試中に、受験中の生徒しか知らないはずの試験問題がネット上の質問サイトへ投稿された事件がニュースで話題になった。試験終了後、大学が警察に被害届を提出したため、さらに報道がエスカレートし、結局、警察が通信履歴を調べ、一人の生徒を逮捕した。

この事件は、日本中の人々に注目されたが、そもそもネットで情報が簡単に探せる時代に記憶力だけを問う受験競争に意味があるのか。大学に入っても、職が保障されるわけでもないし、分からないことに出会ったとき、グーグルで検索すれば、過剰なまでに記憶する必要もないように思う。

それなら、いっそ、ガゼルやライオンのように、子供たちに走り方を教えたほうがよいのではないか。

走り方とは、寝る場所を確保して、食べるものを探して、生きていく力のことだ。
つまり、学校は、キャンプや山登り、海外をバックパック旅行するスキル等を教えるべきではないか。

夜が明けたら、走らねば・・・。


この文章では、アフリカで行われる生存競争のレースと、日本の受験レースという、一見無関係な事柄の中に、人間も動物と同様に「生きるための力」を身につけるべきだという共通点を見出し、これを結論した。私自身が、かつてキャンプや山登り、バックパック旅行をした経験があったので、この結論には、独自の視点に基づいた解釈が含まれていると思う。そして、その結論を導くため、いくつかの通過点を経過させて記載した。

本書のあとがきに、『文章力とは、この世を生きる力である』と述べられている。
自分自身が生き残るためだけではなく、他者と協調して生きる人間社会では、上述して「走り方」の他に、「人を動かす」ためのコミュニケーション力や文章力が必要なのかもしれない。

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