2016年7月27日水曜日

[書評] 職業としての小説家 村上春樹著



本書は、村上春樹が小説家について語った本だが、小説家と対比して、「翻訳者」について考えると面白い。

小説家との違いについて

まず最初に、著者は「作家というのは基本的にエゴイスティックな人種だし、やはりプライドやライバル意識の強い人が多い。」と述べています。たしかに人と違ったオリジナリティのあるアイディアを提供できる人でないと小説家には向かないですね。そういう意味では、発明者に似ているかもしれません。

一方、翻訳者について言えば、個人的には、割りと素直で従順な人で、間違いを自分のせいだと考えてしまう人が向いているように思います。逆に、原文の誤りや解釈について、自分が正しいことを延々と主張する人は向いていないように思いますね。

次に、著者は、小説は誰でも書こうと思えば書けるものであり、実際に歌手や画家など異業種から来た多くの新人作家が小説を書いて、それが評判となることもあるが、二十年、三十年にもわたって小説家として活躍することは難しいと述べています。

これについて言えば、お笑い芸人である又吉直樹さんが書いた「火花」が芥川賞を受賞したことからも納得できますね。ただし、継続して面白い小説を書き続けられるかが小説家としての本当の資質であるようで、今後が勝負ですね。

一方、特許翻訳者は、日本語力と外国語力を含む語学力、論理的思考力、細部を対する注意力、技術理解力など様々な能力が求められ、翻訳者として継続していくことも難しいですが、それ以上に新規参入していくことが難しいと思います。翻訳会社が設けているトライアルが、通常の明細書より難易度が高いものに設定していることからも参入障壁を高くしているように思います。
小説家との共通点について
「長期間にわたる孤独な作業を支える強靭な忍耐力」は、小説家と同じように、フリーランスの翻訳者にも必要となります。普段は、家に閉じこもって仕事をするため、ほとんどしゃべることがない日が続くことになります。長期的にこうした生活を続けるためにも、社会との接点を見つける努力も必要だと思います。

■感想
 以前は、村上春樹氏の小説をよく読んでいましたが、最近は、本書のようなエッセイを好んで読みます。30年以上続けた作家としての生活スタイルは、とても参考になります。著者は翻訳者としても活躍しているので、いつか「職業としての翻訳家」を書いてもらいたいですね。 

 本書の中で、著者は、神宮球場でヒルトンのいう打者が二塁打を打ったのを見たとき、突然、小説を書こうと決心したようです。私自身もこうした直感を大切にしたいと思っています。いつか、こうした啓示のような出来事があったときは、躊躇わず、前に踏み出したいと思っています。


そして、処女作である「風の歌を聴け」を書き上げたあと、自分で読み返した際、その内容があまりに面白くなかったので、一度英文に翻訳し、さらに、それを日本語に翻訳してみたことを語っています。この方法により、独特の新しい文体が生まれ、結果的に「群像」の新人賞を獲得し、小説家としての道が開かれたそうです。彼の文章が翻訳調といわれる所以だそうです。

私は、今のところ特許翻訳のみを対象としていますが、いつかノンフィクション、小説などを対象とする翻訳もしてみたいです。また、今はまったく思いませんが、突然の直感で、小説を書き始めることもありかもしれません。



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