2015年2月25日水曜日

[書評] 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法



<残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法>

■目次
序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学
第1章 能力は向上するか?
第2章 自分は変えられるか?
第3章 他人を支配できるか?
第4章 幸福になれるか?
終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!

著者は、若者の就職難、リストラ、自殺者3万人の日本を残酷な社会と呼び、グローバル資本主義に突き進む日本社会における、勝間氏に代表される自己啓発ブームに警鐘を鳴らす。

「インディペンドに生きるために、お金と能力が必要であり、そのために努力が必要である。」として、好きでもない、資格や語学の勉強に、時間とお金を費やすことが本当に幸せなのか?
なお、著者は、出自、人種、性別、年齢など個人の属性ではなく、学歴、資格、職歴などで評価する能力主義は、差別のない平等な社会を築くためのインフラであることも認識している。
しかしながら、それでも残る自己啓発に対する疑問を、進化心理学や行動遺伝学に基づいて、説明していく。
そして、ネットが発達した現代社会では、ロングテールの中のニッチ市場に「好きを仕事に」することができると主張する。

■能力は向上するか?
 米国認知心理学者ハワード ・ガードナーによれば、人の知能は、さまざまなモジュールの組み合わせによりできており、言語的知能や論理数学的知能に優れた人もいれば、身体運動的知能や音楽的知能に秀でている人もいる。
 また、米国教育心理学者アーサー・ジェンセンによれば、知能(IQ)の70%は遺伝によって決まるという。もちろん、ある程度は、これらの能力は教育によって伸ばすこともできるが、時間と資源が限られているので、個人として、得意な能力、つまり好きなことに資源を集中するほうが最適な戦略と言える。
 しかし、「好きを仕事に」することにも、リスクがつきまとう。それは「好きなこと」が必ずしも市場で高く評価されるものではないというだ。これは、TV局のADやタレントが、TV制作会社やタレント事務所から搾取されている現状からも理解できる。

■自分は変えられるか?
自己啓発の思想は、「まず自分が変われば、相手や世界も変わる」という発想に結びついている。しかし、私は変えられるのか?

結論から言えば、人間の心理や感情は進化の過程の中で自然淘汰によって形成されたものなので、自分を変えることは非常に難しいのだという。
「嫉妬」「恐怖」「嫌悪」「驚き」などの感情も、子孫を残すため、または過酷な環境を生き抜くために有益なので、性淘汰によって広がっていく。なお、「怒り」「悲しみ」は集団内の関係から生じる感情で、人などの社会的な動物に特有なものらしい。

また、心理学研究者ジュディス ・リッチ・ハリスによれば、「人は自分に似た人に引き寄せられる」という引き寄せの法則も、進化の過程で獲得したものであるらしい。


■貨幣空間ではどのように振る舞えばよいか?
我々の住む社会は、以下のような空間に分類される。
  1. 「政治空間」権力ゲームが行われるフィールド。勝者を頂点とする階層構造。
    • 「愛情空間」2人~10人くらいの人間関係で、半径10メートルの小さな世界だが、人生の価値の大半を占める。
    • 「友情空間~政治空間」20~100人くらい、半径100メートルの世界。
  2. 「貨幣空間」お金を媒介にして誰とでもつながるので、その範囲は無限大だが、人生の価値はきわめて小さい。

敵を殺して権力を獲得する政治空間と違って、貨幣空間では、「しっぺ返し戦略」、即ち、まず相手を信頼し、相手が協力すれば信頼関係を続け、相手が裏切れば、自分も裏切る。裏切った相手でも反省すれば、即座に相手を信頼して協力するという方法が最適だという。

また、個人の属性が常に問われる政治空間と違って、貨幣空間は、個人の属性にとらなれないフラットな世界である。

今、グローバル市場経済の中で、この貨幣空間はますます拡大している。

■他人を支配できるか?
自己啓発は、相手を操ることを目的に、意図的に自分を変えるものである。これには非常に頷ける部分がある。例えば、「影響力の武器」という本には、返報性、権威、希少性、好意、社会的証明、コントラスト効果、一貫性という手法が説明されている。この本は、顧客が物品を購入してもらうためのテクニック、つまり他人を支配する方法として、営業等によって読まれている。

■結論
生物は、自分に適したニッチ(生態的地位)を見つけることで、過酷な進化の歴史を生き延びてきた。我々も、グローバル市場に目を向け、その中でニッチを見つけていくべきだ。

■感想
独立して働き始めようとしたタイミングで本書に出会えたことは幸運だと思う。私自身もたくさんの自己啓発本を読んできたが、それは会社の中で出世するためであったり、またはいい会社に転職するためだったという気がする。しかし、本書によれば、本来持っていない能力を向上させたり、自分の性格を変えることは難しく、人はそれぞれ固有の能力を持って生まれてくる。我々は、それを磨いて、グローバル市場の中でニッチな市場を見つけていけばよいということだ。会社という閉じられた空間で権力ゲームに巻き込まれるよりも、ずっとエキサイティングな人生だと思う。




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