12月に入り、今年ももうすぐ年末に近づいてきましたね。仕事のほうはいたって順調ですが、処理速度の向上、スケジュール管理など、すこし余裕がでてきたので、下半期は、北海道、上海、沖縄と立て続けに旅行していました。そのため、普段よりも映画を観る時間が少なかったですが、その中でも特に面白かった作品を紹介します。
- セールスマン
<感想>
トランプ政権に抗議して、本年度米アカデミー賞授賞式をボイコットしたアスガー・ファルハディ監督によるイラン映画。第89回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した話題作。登場人物の心理描写も脚本も素晴らしく、この監督のファンになりました。特にエンディングに至るまでの展開は、映画「セッション」を思い出すような、ハラハラと手に汗握りました。下半期で一番面白かった映画です。<あらすじ>
共に小さな劇団に所属する夫婦(シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリドゥスティ)は、ちょうど劇作家アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」の舞台に出演していた。教師として教壇にも立つ夫が家を空けた隙に、転居したばかりの家で妻が何者かに乱暴されてしまう。その日を境に二人の生活は一変し……。 シネマトゥデイ (外部リンク)
- ありがとう、トニ・エルドマン
<あらすじ>
正反対の性格の父娘が織り成す交流をユーモラスに描き、ドイツで大ヒットを記録したヒューマンドラマ。陽気で悪ふざけが大好きなドイツ人男性ヴィンフリートは、ルーマニアで暮らす娘イネスとの関係に悩んでいた。コンサルタント会社で働くイネスは、たまに会っても仕事の電話ばかりしていて、ろくに会話もできないのだ。そこでヴィンフリートは、ブカレストまでイネスに会いに行くことに。イネスはヴィンフリートの突然の訪問に戸惑いながらも何とか数日間一緒に過ごし、ヴィンフリートはドイツへ帰っていく。ところが、今度は「トニ・エルドマン」という別人のふりをしたヴィンフリートがイネスの前に現われて……。監督・脚本は「恋愛社会学のススメ」のマーレン・アーデ。第69回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど、世界各地の映画祭で高く評価された。<感想>
ドイツのコメディーが、あまりにも想定外でド肝を抜かれましたが、これほど多くの賞を受賞したのは、父親と娘との難しい関係性が普遍的なテーマとしてあるからだと思います。キャリア・出世に邁進する娘に、音楽教師だった父親がホイットニー・ヒューストンの「The Greatest Love of All」を通じて不器用にも想いを伝えようとするシーンが、感動的でした。
- ゲットアウト
<あらすじ>
ニューヨークで写真家として活動している黒人のクリス(ダニエル・カルーヤ)は、週末に恋人の白人女性ローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家に招かれる。歓待を受けるが、黒人の使用人がいることに違和感を覚え、さらに庭を走り去る管理人や窓に映った自分を凝視する家政婦に驚かされる。翌日、パーティーに出席した彼は白人ばかりの中で一人の黒人を見つける。古風な格好をした彼を撮影すると、相手は鼻血を出しながら、すさまじい勢いでクリスに詰め寄り……。
<感想>
あまりホラー映画は見るほうではありませんが、今まで見た経験からいえば一般的にホラー映画は過剰に怖がらせる演出が多いので、ストーリーが入ってこない作品が多いように思います。しかし、本作はストーリーがしっかりしていて、恐怖を煽るような過剰な演出は少なかったです。ただし、登場人物の演技力により、不気味さを訴求させる点が非常に面白い。ホラー映画というより、新しいジャンルの不気味(wired)映画という感じで斬新でした。
- ゆきゆきて、神軍
<内容>
神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎謙三は、たったひとりの「神軍平等兵」として、 神軍の旗たなびくトヨタ・マーク2に乗り、今日も日本列島を疾駆する。そんな中、かつての所属部隊・独立工兵隊第36連隊のうち、ウェワク残留隊で隊長による部下射殺事件があったことを知り、奥崎は遺族とともに真相究明に乗りだした。なぜ、終戦後23日もたってから、二人の兵士は処刑されねばならなかったのか。執拗ともいえる奥崎の追求のもと、生き残った元兵士達の口から戦後36年にして はじめて、驚くべき事件の真実と戦争の実態が明かされる。
<感想>
茂木健一郎氏、江頭2:50氏などの著名人が絶賛していた、1987年公開のドキュメンタリー映画。今年、アップリンクで公開30年記念上映が行われ、連日大盛況。
「ボウリング・フォー・コロンバイン」や「華氏911」などのドキュメンタリー作品を手がけた、アメリカのマイケル・ムーア監督が本作を「生涯観た映画の中でも最高のドキュメンタリーだ」と語ったという。このことからアメリカでも戦争の真実を迫ることがダブーなのだろう。
本作には、残念ながら、奥崎がパプアニューギニアに行った映像は、インドシア政府に没収されたため、収められていないが、このあたりは、本作と併せて「ドキュメントゆきゆきて、神軍 (現代教養文庫)」を読むと、詳細を知ることができ、興味深い。
「過去に目を閉ざすものは現在にも盲目になってしまう」という。本作は悲惨な過去に目を向けることで、今を見つめる作品である。