2011年11月10日木曜日

[書評]ウェブはバカと暇人のもの 中川淳一郎



梅田望夫氏は、著書『ウェブ進化論』の中で、ネットの世界を、テクノロジーがもたらす理想郷と捉え、頭の良いネットユーザーが集合知を利用して、様々なものを生み出していくweb2.0の可能性を高らかに宣言した。
(梅田氏の著書の書評はこちら→「ウェブ時代の5つの定理」)

一方、本書の著者中川淳一郎氏は、そうしたネットの可能性に期待しながらも、現実には、他人を平気で罵倒したり、他人の発言の揚げ足をとったりするネット世界に、嫌気がさし、気持ち悪さを感じていた。

本書は、こうしたネット世界の影の部分を描写し、ネットとの関わり方を考えさせられる。

■目次
第1章 ネットのヘビーユーザーは、やっぱり「暇人」(品行方正で怒りっぽいネット住民
ネット界のセレブ「オナホ王子」 ほか)
第2章 現場で学んだ「ネットユーザーとのつきあい方」(もしもナンシー関がブログをやっていたら…
「堂本剛にお詫びしてください」 ほか)
第3章 ネットで流行るのは結局「テレビネタ」(テレビの時代は本当に終わったのか?
ブログでもテレビネタは大人気 ほか)
第4章 企業はネットに期待しすぎるな(企業がネットでうまくやるための5箇条
ブロガーイベントに参加する人はロイヤルカスタマーか? ほか)
第5章 ネットはあなたの人生をなにも変えない

■品行方正で怒りっぽいネット住民
リアルの世界では、日本人の多くは、ものを強く主張したり、他人の行為を注意したりしない。しかしながら、著者は、ネットの世界だと、人を咎めたり悪口を書いたり罵声を浴びせたりする人ばかりだという。

特に、芸能人や有名人がうかつなことを発言してしまうと、「怒りの代理人」がネット上で何らかの正義感のもとに、罵詈雑言を書くという。

そして、著者は、「プロの物書きや企業にとって、ネットはもっとも発言に自由度がない場所である」と結論付けている。

■ネットで流行るのは結局「テレビネタ」
テレビは、Youtube等でアップされた番組をときどき見るくらいで、なんとなく、最近のテレビ局の低迷から、「テレビは終わった」のかと感じている。しかし、本書によれば、テレビはたしかにかつてほどの影響力はなくなったが、数千万人への人へアプローチでき、流行を生み出すことができる唯一のメディアであるという。そして、ネットとテレビは、非常に親和性が高く、ネットで検索されるキーワードや、ブログで話題にあがるネタも、「テレビネタ」が多いという。

■ネットでうまくやるための5か条
1.ネットとユーザーに対する性善説・幻想・過度な期待を捨てるべき
2.ネガティブな書き込みをスルーする耐性が必要
3.ネットではクリックされてナンボである。かたちだけ立派でも意味がない。そのために、企業にはB級なネタを発信する開き直りというか割り切りが必要
4.ネットでブランド構築はやりづらいことを理解する
5.ネットでブレイクできる商品はあくまでモノがよいものである。小手先のネットプロモーションで何とかしようとするのではなく、本来の企業活動を頑張るべき

■感想
私自身も『ウェブ進化論』等を読んだとき、個人が世界中の情報にアクセスし、自分自身の考えを大衆に向かって発言できるウェブの可能性に大いに期待した。そして、テレビをやめ、ネットでRSSやソーシャルブックマークを利用して、情報収集し、ブログ、SNSなど利用し、アウトプットするようにしてきた。
しかし、本書を読むと、ネットは、過度に期待するものでもないし、またSNS、ツイッター等で、どこまでプライベートをさらけ出すかについて、考えさせられる。できれば、リアルな世界で充実して生きるために、ネットを利用したいと思っている。

また、日本語圏と英語圏による情報格差が拡大していくのではないかと危惧してしまう。つまり、最近、米国トップ大学への日本人留学者数の減少が話題になっているが、これに加え、本書で指摘されたように、プロの物書きがネット上で発言を萎縮してしまうような状況が続けば、英語圏に比べ、日本語圏では、ウェブにおける知の供給者が相対的に低下していくかもしれない。

いずれにしろ、ネットも、テレビと同様に、誰もが(通信料を払えば)無料で利用できるので、ネットユーザーの多くを完全な「善」として捉えないようにしたうえで、ネットを利用したほうがよさそうだ。




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